6月。それは私の人生を変えた月。





6月といえばジューンブライド。


この月に結婚した夫婦は一生幸せになれるというシーズン。


私達は、ひっそりとしたこのチャペルで結婚式を挙げようとしていた。




――― 誰も祝福してくれる人のいない、結婚式を。




あれは5年前の6月。


ジューンブライドになぞらえて、一組のカップルが結婚式を挙げている最中だ。


それは私のいとこの姉と、その彼氏の結婚式。


いつもと違って、ウエディングドレスを着た姉は、とてもとても綺麗だった。



「もう姉ちゃん結婚すんのかぁ。」


「何?悠一郎寂しいの?」



悠一郎は私のいとこ、つまり結婚するいとこの姉の弟である。


私と同い年で、結構仲が良い。


「なんて言えばいいんだろうなー・・・よく分かんないけど。」


「・・・?変な悠一郎。」



そして無事に式も終わり、大人たちは披露宴、二次会に行く。


私は悠一郎と二人で自宅に戻り、食事をする事になっていた。


家までの道を、ゆっくりと二人で歩く。


「今日はお姉ちゃん綺麗だったね!いいなぁ・・・私もあんなドレス着てみたい。」


「ん・・・そっか。」


「今日の悠一郎、本当に変だよ?何かあった?」


いつもは誰よりもテンションが高くて、ニコニコと笑っているのに。


今日は一度も笑っている所を見ていない。


ずっと難しい顔をしたままだ。



・・・何か、おかしい。


そんな時、悠一郎が口を開いた。


「なぁ、。お前・・・好きな奴とか、いるか?」


「!? ・・・っそんなの、言えないよ・・・。」




誰にも言えない、小さい頃からの秘密。


・・・私は、いとこである悠一郎の事が好きだった。


法律的には結婚できる。でも、血の繋がったいとこだ。


両親だって許してはくれないだろう。


そう思ってずっと隠してきた気持ちだった。



「・・・悠一郎は、いるの?好きな人。」



正直、聞くのが怖い。



「・・・いるよ。ずっと前から。」


「そ、そっか・・・。」



絶対、私であるはずがないから。


そっか・・・と言うので精一杯だった。


息が出来ない程に、苦しい。



「物心がついた時にはもう好きで、それからずっと片想い。


向こうは俺の気持ちに気付いてもないよ。きっと、迷惑・・・だと思うし。」


いつも明るく笑っていた悠一郎が、こんなに苦しんでいたなんて知らなかった。


同時に、そこまで悠一郎に想われている女の子がすごく羨ましかった。


「そんな事、ないと思うよ?人に想われて迷惑だなんてないと思うし・・・気持ち、伝えてみたら?」


私に出来る事は、背中を押してあげることだけだ。


自分の気持ちを伝えて、今の関係を壊してしまうよりずっといい。



「そっか、そうだよな・・・ありがと。」


とだけ言って、それから黙ってしまった。



重い、重い沈黙。



私の家が近くなり始めた頃、その重い沈黙は悠一郎によって破られた。



「なぁ・・・俺、ずっと前からの事が好きだ。お前はいとことしてしか見てないと思うけど・・・。




 迷惑だろうけど、これが俺の気持ち。」




これは夢なんじゃないだろうか。


絶対に叶うはずのない気持ちだったのに。



・・・言葉が、出ない。


でも、言わなければならない言葉がある。


「私も・・・悠一郎の事が好き・・・。小さい頃から、ずっと・・・」












それはもう、5年も前の出来事。


この時から現在まで、私と悠一郎の関係は続いている。


2人が20歳になった年、お互いにこの事を両親に報告した。


・・・結婚しようと、考えている事も。




もちろん両者大反対。


まぁ、始めから分かっていた事だけど。


それくらいで別れてしまうような恋なら、初めからしない。


そして2人で、2人だけの結婚式を挙げることにしたのだ。


このひっそりとしたチャペルで。



ウエディングドレスに身を包んだ私を見て、悠一郎は


「あの時の姉ちゃんよりずっと、ずっと綺麗だよ。」と言った。



いよいよ結婚式の開式。


神父さんの問いに、一つずつ「誓います」と答えていく。


誓います、と言うたびに喜びが込み上げてきて。


そんなこんなでもう最後の指輪交換。


私の差し出した左手に、悠一郎が指輪をはめる。


。好きとか嫌いとかそういう事じゃなくて、ただただ一緒にいたい。小さな頃から、ずっと・・・愛してるよ。」






今でも心に残っている言葉。


永遠の愛を誓った、あなたとの言葉。


好きとか嫌いとかそういう次元の感情じゃなくて、ただただ一緒にいたい気持ち。




・・・ずっと、ずっと、永遠に。