それは、私の何気ない一言から始まった。
「じゃあ、今回のテスト私よりいい点数取ったら何かあげるよ。」
すると何を考えたのかよく分からないけど、
悠一郎は目を輝かせながら「ホントに!?ホントに何でもくれんの!?」と言った。
あの時は悠一郎の剣幕に押されてつい「うん」なんて言ってしまったけれど、大丈夫だろうか。
高価な物買わされたりしない・・・よね?
新しいバットやグローブが欲しいとか言われたらどうしよう。
・・・ならば手段は一つ、悠一郎に負けなければいい。
幸い奴はバカだ。しかも私よりずっと。
気さえ抜かなければ余裕で勝てる相手。
残念ね、勝負はする前から決まっていたのよ、悠一郎。
なんて心の中で呟きつつ、家に帰ってから一通り勉強し、いつもより早めに眠りについた。
そして、運命のテスト返却日。
肝心のテストといえば・・・普通。
結果はいつも通り。まぁ何にせよ負ける事はない。
一安心、一安心と席に戻ると、悠一郎が来た。
「なー!テストどーだった!?」
「んー?いつも通りだよ、悠一郎は?」
この時、私は自身の勝利を確信してならなかった。
そう、この時までは。
「じゃーん!どーだよ!俺頑張ったっしょ?ゲンミツに!!」
そこに書かれていた点数は、私よりも良い点数。
・・・一点だけだけど。
でも、負けは負け。
「ゆ・・・悠一郎に負けた・・・。」
どうしよ、本当に今月お小遣いピンチなのに・・・!
ああ神様、どうか高価な物だけは!!
色々ぐるぐると考えながらうつむいていると、おもむろに悠一郎が口を開いた。
「っ!こっち向いて!」
「ん?な、に・・・」
・・・・・・・・・
私が我に返ったのは、女子特有のあのかん高い「キャー!!」という声と、男子のはやし立てる声が聞こえた辺りから。
あれ・・・?今、何を・・・?
「奪っちゃったー♪ほら、ごほーび!の唇もーらいっ!」
そんなキラキラの笑顔で言われたものだから、怒気なんてどこかへ行ってしまった。
顔はまだ熱くて、心臓もうるさい。
バカ。ゆーいちろーのアホ。
でも高価な物じゃなくて良かったかな、なんて安堵したりもする。
このざわめきさえも心地良く思ってしまう私は、すっかり悠一郎のペース?
お金より、唇より、大切な物を奪っていった・・・あなた。
(「私の心は、返品不可だからね!」)(「死んでも返してやんねーよ!」)