「モトヤーン寒いよー。」

「仕方ないよ、冬だもん。」






あたしは冷え性だ。しかもかなり重度の。


そんな中水仕事だなんだって・・・マネジはつらいよ。


手がかじかんでスコアが付けられない。




冬の大魔王!お前もう帰れ!



そんな事を考えながら、この寒いのに頑張っている球児たちを見ていた。


・・・みんな良くやるよ。あたし、みんなの事尊敬する。


その中でも一番目がいくのは、ファーストのモトヤン。


実はあたしの彼氏だったりする。名前で呼べよ、って思うかもしれないけど、そこには触れないで頂きたい。


全員のキャラが濃い野球部では目立たない方だけれど、背も高いしかっこいいんだぞ!


自分の心の中でそう叫んでから、かじかんだ手でのスコア付けを再開した。





冬の夕焼けが美しく見える時間。


やっと練習が終わった。寒いと時間が経つのが遅く感じるのは何故だろうか。



「モトヤン帰ろー?」


「うん、ちょっと待ってね。」




モトヤンが着替え終わるのを待ってから、2人で夕焼けをバックに歩く。


そこであたしは、この空間をロマンチックに変える方法を思いついた。



「ねーモトヤン。あたし、手が冷えて死にそう。」


「え?カイロ持ってないの?ハイ、これ使っていいよ。」


いやいや、そうじゃなくてですね、とあたしはカイロを返す。



「だからさ・・・その、寒いから・・・ね?」


「あ、分かった!あったかいココア飲みたいんでしょ?今日も頑張ってマネジの仕事してたから、俺ご褒美として買ったげる。特別だよ?」


うん、たしかに飲みたい。・・・ってそうじゃなくて!!




「もーちっがーう!あたしはただモトヤンと手が繋ぎたかっただけなのー!!!」


思わず叫んでしまった。うん、モトヤンすごいびっくりしてる。当たり前だけど。




・・・・・・・。




「あはははは!何!?すっごく面白い!」



あたしは準太の笑いのツボもおかしいと思うけど、モトヤンのツボも相当おかしいと思う。


この場面で大爆笑って。あたしなんだかおいてけぼりだよ。


そんな中やっとこの人は笑いがおさまった。そんなに何が面白いのよ、モトヤン。




「・・・。手、繋ごっか?」



唐突に言われた言葉。あたしはもちろん「うん。」としか言えなくて。



・・・やっぱり、かっこいいよ。さりげなくこんな事言えちゃう所も。




夕焼けをバックに2人で歩く。


あたしの右手には、あったかいココア。


そして左手は、モトヤンの右手と繋がっていて。


冬の大魔王。もう少し、もう少しだけ帰らなくていいからね。


彼の手から伝わるあたたかさが、あたしの心まであたためていた。


指先から伝わる言葉。”あなたの事が大好きだよ”。