それは、のどかな昼休み。


でも、その平穏さは突如として崩れ去ってしまうのです。




あたしは、只今準太と食事中。


春の屋上とは実にのどかなもので。


暖かい陽気。おいしいご飯。そして隣には大好きな準太。


これを幸せというのですね、神様。


あたしはイチゴオレをすすりながら、しみじみとそう思った。



そして何気なく蘇った、昨日生まれた疑問。



「ねー、”恋のABC”って何?」





・・・一瞬にして、空気が変わりました。


え?この疑問マズかった?何かマズい事だった?



準太は、一時停止したみたいに動きが止まっている。


おーい。あたしはそんなスイッチ押した覚えないぞー。


・・・なんか地雷を踏んだ感覚は大いにあるけど。まぁそれはあえて触れないことにしておく。


あたしはあたしの疑問を口に出しただけだ。何も悪い事はしていない。



なんて自己中心的な考えを展開していると、準太が我に返った。


あ、良かった。生きてた。


そう思った矢先、


「ちょっと!?どこでそんな卑猥な事を・・・っ!慎吾さんか!?慎吾さんだな!?」


突然慌てだした。


止まったり慌てたり忙しいな、準太は。



それに一つ分かったことがある。


”恋のABC”は、慎吾さんに関係のある卑猥な事だってこと。


なんだか一つ賢くなった気分だ。


お父さん、お母さん!あたしはまた一つ大人の階段を登ったよ!


なんて両親への報告もそこそこに、あたしは準太に返事を返す。



「なんかね、昨日テレビで言ってたんだけど意味分かんなくて。慎吾さんに聞いて分かるんなら聞きに行こうかなぁ。」




(くっそ・・・なんつーテレビだ・・・!後で苦情の電話してやる!)
 
 
 ダメダメ!慎吾さんに聞くのだけは絶対ダメ!!・・・何されるか、分かったもんじゃない。」




一体何なのだろう。そんなに準太が反応するもの・・・




ダメだ、あたしには全く想像出来ない。



そこでふと、いい考えを思いついた。



「あ!じゃあ準太が教えてよ、恋のABC。」


「お前・・・っ!(そのセリフ、きわどい!)」


「だって分かんなくてモヤモヤするんだもん。ね?お願い!」


「・・・。分かったよ。」


「ありがとー準太っ!」



これで昨日からの疑問が解消される。


何かもう脳がアハ体験!・・・意味分かんないけど。



「あー・・・なんつーかその・・・まぁ・・・


 やっぱ無理!言葉じゃ説明出来ねーから実践で行く!まずは・・・Aから、な。」


そう言った準太の頬が染まっていた意味を、あたしは3秒後に知ることとなる。




・・・触れた唇からは、かすかにイチゴオレの香りがした。




背伸びは禁物、恋のABC。


(「ねぇ。Aがキスなのは分かったけど、BとかCとかは?」)(「それは・・・また今度な」)