アイツなんか、最低だ。


そう思っても・・・離れられない―――・・・





耳にはさざめく波の音。


今の私にとっては、その音でさえも耳ざわりで不快だ。


「馬鹿元希。お前なんか死ね。」


小さな声で呟いてみたら、波音にかき消された。


・・・なんだか、余計にイライラする。




元希というのは私の彼氏、である。


いまいち言い切れない部分があるのは、こいつに浮気癖があるから。



初めの方はちゃんと怒ったり、泣いたりしていた。


元希の浮気相手と殴り合いのケンカをした事もある。


自分だけを見てもらえないのが悔しくて、悲しくて。




浮気をするたびアイツは


「お前が一番かどうか確かめてたんだよ。俺はアイツの事好きな訳じゃないからいいだろ?」


なんて事を言った。




何度も別れようと思ったけど、そのたびに


「俺にはお前が必要なんだ。別れたくない。」


と、マウンドに立ったときと同じ、あの真剣な目で私を引き止める。




・・・別れられるはずがなかった。


どんなに元希が最低でも、私の心の中にある”好き”という感情は変わらないままで。



でも、もうその関係に終止符を打つときが来たようだ。



耐え切れないストレスに、悲鳴をあげた私の心。


それは、傷だらけになった左腕が全てを物語っていた。



私は自分自身に決着をつけるために海に来たのだ。


元希からもらった指輪を捨てて、何もかも忘れてしまおうと。



深く、深く息を吸う。


覚悟を決め、大きく腕を振りかぶった。




その時。




「お前、ここの海はポイ捨て禁止なんだぞ?知んねーのか?」




今、一番見たくなかった顔。


そこに現れたのは、元希だった。



「あ、しかもソレ俺があげたやつじゃん。何捨てようとしてんの。」


「うるさいっ!アンタが悪いんでしょ!?私、もう別れるから!!」



色々な感情が混ざりすぎて、自分でも怒ってるのか泣いてるのか分からない。


左腕が、熱を持っているようだ。



熱い。苦しい。




さっきから元希は黙ったまま。


そして、私をじっと見る。



・・・あのマウンドに立った時と同じ、真剣な目で。


「俺にとっての一番はお前だけだ。俺にはが必要なんだよ。だから、別れない。別れさせない。」




・・・ダメ。その目で私を見ないで。


せっかく別れるって決めたのに。


また、踏みとどまって許してしまう。



・・・世界で一番、愛してる。」





嗚呼。また、だ。




「何でアンタはいっつも・・・!離れられなくなるじゃない・・・っ!」



捨てようとしていた指輪を私の左手薬指に戻してから、榛名は


「離れられなくていい。には俺だけいればいい。」


そう言って私を抱きしめた。




そんな事言ったって、アンタはまた同じ事を繰り返すんでしょ?


アンタだけじゃなく、私も同じ事を繰り返す。


スキ?キライ?スキ?


抜けられない無限ループ。



これこそが、私の囚われた” 恋愛中毒 ラブ・ホリック ”。