何か満たされない感じ。


私はそれを埋めるため、やめたはずのタバコに手を伸ばす。





思い出すのはあの熱帯夜。


もう、私の名前は呼んでくれないの?


後にも先にも、私達は一回きりの関係。




一ヶ月程前、私とあなたが出会ったのはにぎやかな繁華街。


見ず知らずのあなたに、ナンパされて私がついて行った。


で、そのまま一夜を共にして、朝にはサヨナラ。


たったそれだけの事なのに、頭はその事ばかりで一杯だった。




あなたは一夜のうちに魔法を掛けてしまったの。私の頭の中を占領して、あなたなしではいられなくなるような魔法。


私はその魔法を欲している。そして、あの熱情的な、夜を。



きっと今日もあなたは、他の女の名前を呼んでいるんでしょう?


またあの繁華街に行けば会えるかな、なんてね。


悲しい位の勘違い。もう会えないって、分かってるのに。



私はあなたの魔法に魅了されて、心奪われた哀れな猫。




元希。

もうこの名前を呼ぶのも最後。




嗚呼、もう一度あなたの腕に、唇に、触れられたなら、





(叶うはずの無い、私の唯一の望み)