「うるさいっ!もう花井なんか知らないから!」



それは、ささいなすれ違いでした。






私、と、野球部キャプテン花井梓は付き合って、いる、はず・・・。


何故こんなにも曖昧な言い方をするかというと、自信がないから。


付き合い出してからは、元々喋らない方なのに更に口数が少なくなって。


私の方だけが花井の事を好きで、花井は私に同情して付き合ったのかな・・・なんて考えてたらどんどん不安になって。


しまいにはケンカしてしまった。・・・どうしようもないな、私。




放課後はいつも教室からグラウンド・・・いや、花井を見るのが日課なんだけど。


ケンカしたばっかりだからやめようかなーなんて。



でも、日頃の癖というのは恐ろしい程に抜けないもので。


気が付けば私は窓際の席に座り、グラウンドにいるはずの花井を探していた。



「あれ・・・?いない・・・。」

いつもは誰よりも早くグラウンドに出てくるはずなのに、今日はどこにも花井の姿がなかった。


花井のいない野球部なんて見ていても仕方がない。


帰ろうかな・・・と思って席を立つと、突然教室後方のドアが開いた。




「やっぱ・・・ここにいたか・・・」




そこには、今まで私が探していた人、花井がいた。


どうやら走ってきたらしく、肩で息をしている。


なんで、ここに?部活は?ここにいたか、ってどういう事?


聞きたい事は山程あったけれど、とりあえず私は今一番頭に浮かんだ事を聞いた。


「なんで・・・私がここにいるって知ってるの?」


「馬鹿!!毎日お前ここからグラウンド見てたろーが!田島や水谷に毎日からかわれてたら嫌でも覚える。」



”嫌”という一言が心に重くのしかかる。


私は花井にとって迷惑な存在でしかなかったんだろうか。


泣きたくない心とは裏腹に、目にじわっと涙が溜まる。




「あーもう泣くなよ!なんていうかその・・・は俺といるのが楽しくないんじゃないかって思って・・・。」


「・・・っ!そんな事ない!私はいつだって花井と一緒にいたいよ!傍にいるだけで幸せなの!」



今までこらえていた思いが全て溢れた。


それと同時に、目からは大量の涙が零れ落ちる。



「だから泣くなって!・・・がそこまで俺のことを思ってくれてたなんて、知らなかった。

 お前に惚れてるって気付いた時から、妙に意識して話せなくなって・・・ってお前!何笑ってんだよ!」



なんだかあまりにも素直すぎる花井が面白くて、いつの間にか泣いていた事も忘れ、私は肩を震わせて笑っていた。



「だー!もう笑うんじゃねー!!」


そう言った花井の顔は真っ赤で。


先程の発言が本心であることを示していた。


”嫌”という一言よりも、”惚れている”という言葉が嬉しくて。



「ゴメンね・・・。花井、大好きだよ。」



「お前、顔真っ赤。・・・俺も、ずっと前からに惚れてるよ。」




お互い見合わせた顔は、熱い位に赤い色。


まだういういしい2人は赤く色付き始めた林檎のよう。



「ねぇ、梓って呼んでいい?」


「お前なら構わねーよ。好きに呼べ。」


「じゃあ、私の事も名前で呼んでよね!梓、一緒に帰ろ?」


「ああ、そうだな。。」




ゆっくりゆっくり時間を掛けて、赤く綺麗に色付きましょう?



素直になれない貴方と私。


林檎の色は、恋の色。