「私ね、今日レズなんじゃないかって疑いが掛かったよ。」
「はぁっ!?」
俺は、彼女の突然の発言に酷く驚いた。
発言とはいつも唐突なものだけれど、今回は内容が内容だったからだ。
「どういう事?それ。まさかお前・・・!」
「そんな訳ないでしょ。今日ね、お昼休みに友達と恋愛について話してたの。
で、『って好きな人いるの?』って聞かれて、『いるよ。梓。』って答えたら『え!?レズなの!?』だって。」
「はぁ・・・。」
俺、花井梓はため息をついた。
いくら俺の名前が女みたいだからってレズはねぇだろ。冗談じゃない。
愛する彼女にそんな疑いが、たとえ一瞬であったとしても生じた事については、
自分の名前、そしてその名前を付けた親を恨むしかなかった。
名前のことでからかわれ続けた、十数年間の思い出が蘇る。
「俺のこと名前で呼ぶのはいいけど・・・レズに間違われるんじゃなぁ・・・」
「ダメっ!!私”梓”って名前大好きなんだから!絶対名前で呼ぶっ!」
突然の発言。嗚呼、またか。
嫌でしかなかった自分の名前のはずなのに、それでよかったと思った自分が居て。
俺は彼女の一言って大きいな、なんて感心した。
しかし、大きいが故に持つ力は強大で。
例え名前の事だとしても、大好き、なんて言われれば照れるし、恥ずかしい。
・・・顔が、熱を持っているようだ。
「そう、だな。名字で呼んでたら・・・同じ名字になった時、呼び様がなくなるもんな。」
必死の、照れ隠し。
「うん!梓!」
こんな恥ずかしいセリフを当たり前のように受け止めるが愛しくて。
うなづいてくれた時のとびっきりの笑顔は、俺にとって一番大切なもの。
「ねぇ、顔赤いよ〜?」
「うるせー!お前も同じ位赤いぞ!」
くすぐったいようなやりとりも、赤く色付く頬も。
全部、全部が大好きで。
俺にとっての幸せは、お前の隣にいること。
お互い赤い顔で笑いあって、通じ合う想いはひとつ。
何よりも大切な。
・・・絶対、離さねぇから。