雨がぽつぽつと降ってきた放課後。
それが、私の恋のはじまり。
「雨、止まないなぁ。」
図書委員の私は、その日遅くまで学校にいた。・・・と言っても、それは普段と比べての話。
今朝のニュースでやっていた「午後からの降水確率80%」というのが見事的中したのか、
午後からはしとしとと雨が降っていた。
そんな訳だから、当然外の部活は中止になる。
いつもよりしん、と静まり返った学校。
そして静かな空間に響いた、ひときわ大きな野球部員の声。
雨なのによくやるよ、なんて思いながら、私は本を運ぶ為に図書室を出た。
空から降る雫を眺めながら歩く。雨脚は強くないけれど、未だ止む気配はない。
そしてちょうど渡り廊下に差し掛かった辺りで、先程から聞こえる声の主に出会った。
同じクラスの、水谷君。
いつも音楽聴いてて、ユルくて今時って感じの人。それが私の彼に抱いていたイメージ。
でも、そこにいた水谷君は違う人みたいで。
雨に濡れて雫の落ちる髪。
初めて見たユニフォーム姿。
私が見たことのない、野球に対しての真剣な眼差し。
心臓が、ドクンと脈打った気がした。
・・・水谷君から、目が離せない。
「あ、さんだ!」
声を掛けられてから、ハッと我に返った。
水谷君はいつもの水谷君で、私にひらひらと手を振っている。
私は、一体どれくらいの間彼の事を見ていたんだろうか。
とりあえず手を振り返してから「部活!頑張ってね!」と、それだけ言うのが精一杯だった。
気付いた想い。
それは、降り注ぐ雨のように突然としたもので。
雨が降れば、また知らない君の事を知る事が出来るような気がするんだ。
明日も、雨が降りますように。