私は今、人生最大のピンチです。




魔王が!野球部の魔王が私に告ってる!






時を遡ること30分前。


ここは夕焼けに照らされた放課後の教室。


告白したい・されたいランキングでも上位に入るシチュエーションである。





そんなシチュエーションが成立するこの時、私は忘れ物を取りに来ていた。



別に誰かに呼び出されたとかそういう訳ではない。むしろそんな経験は人生の中で一度だってない。皆無だ。



・・・なんて、ドラマチックのかけらも無い青春。自慢にもなりやしない。






でも悲しいかな今の私にとっては『青春<忘れ物』で。


明日提出の課題だから、今日中にやらなければ間に合わない。


よりにもよって学年で一番怖い先生の教科・・・嗚呼、全く何たるミステイク。








そして無事忘れ物を鞄の中に入れ、帰ろうかと思った時。


突然教室前方の扉が、ガラッという音と共に開いた。







「あ、阿部だ。」


「お前、何で教室にいんの?」






阿部は、隣の席の野球部員。


別名”野球部の魔王”。水谷君とか本当に恐れてる。








そしてあろう事か魔王は、私に色々な意味でのパニックをもたらした。







「あのさ、俺、の事が好きだ。俺と付き合って欲しい。」







・・・ん?今なんて言いました?


付き合うってアレですか。チューとかそういう事する方ですか?


・・・まさか、ね。・・・え?



いや、ないないない!第一阿部が私を好きになる要素がない!




これは、そうだ。





『(友達として)が好きだ。俺と(どこかの場所。買い物とかに)付き合って欲しい。』って事だよね!



なんて変な期待をしないように自分を納得させてから、





「今日は課題がありますので明日にでも・・・で、阿部様はどこに付き合って欲しいのでしょうか・・・?」と言っておいた。


よし、これでいいんだ、グッジョブ私。


「だから、の事が好きだって言ってんの!」


「それってどこの黒蝶さんよ?」


「・・・お前、ワザとやってんだろ。」


「まさか・・・阿部正気?冗談とかバツゲームとかじゃなくて?」


「俺がこんな大事なことを、そんなくだらない事で言うと思うか?」









まさか、本当に予想外だ。これって夢とかじゃないよね?


冗談でもバツゲームなく、あの魔王が・・・私を好き?







「だって!阿部が私を好きになるなんてありえないもん!!私可愛くも優しくもないし!」








これが、本心。


好きだって言ってもらえるのは嬉しいけど、私は自分に全くもって自信がない。


阿部は格好良いし頭良いし、女子からも人気がある。

そりゃあ魔王とか呼ばれてて目つき悪くて性格に多少難があるかもしれないけど、それだけ差し引いても到底私と釣りあうような人じゃない。


阿部の事を意識したことだって、数え切れないくらいある。


でも、私は阿部の隣に居られる様な人間なんだろうか?


そんな事を延々と考えていたけど、自分が一体どうすれば良いかなんて全く分からなかった。




そんな時、私の目の前にいる阿部は、呆れたような表情を浮かべた後、



「アホか!俺にはお前しか可愛く見えねぇんだよ!!」と言った。・・・いや、怒鳴った?







頬が染まってみえるのは、夕焼けの所為なのかどうなのか。


でも、それが自分の気持ちに素直になるきっかけをくれた事もまた事実で。


夕焼けに染まる教室、なんてシチュエーションも悪くないな、


なんて、根拠のないランキングにお礼を言いたい気持ちでいっぱいだった。










自意識過剰の正反対。ひっくり返って”Re:自意識過剰”。






君の事が、好きです。









(「ほんっと素直じゃねー奴。」)(「阿部にだけは言われたくないっ!」)